ライドシェア
ライドシェア。一般のドライバーが自家用車を使って、有償でお客を送迎するサービスです。日本でもその導入について議論が始まりました。このライドシェア、米国のウーバー(Uber)やリフト(Lyft)、中国のディディ(DiDi)などが有名ですが、東南アジアでも広く利用されています。ここでは東南アジア大手のグラブ(Grab)と、ラオスで独自にサービスを展開しているロカ(Loca)について、実体験をもとにご紹介します。
旅行で使う
グラブはシンガポール発のライドシェアサービスで、シンガポール以外にも、タイ、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、ベトナムで利用することができます。
タイではタクシーの評判があまり良くありません。「Meter TAXI」と表示されていても、外国人が乗車する時にはメーターを倒してくれないタクシーがほとんどです。料金は事前交渉しなければなりませんが、乗車拒否は日常茶飯事で、外国人と見ると法外な運賃を要求してくることもあります。あまりに悪質なケースはニュースになったりします。行き先を伝えるのも一苦労で、英語はほぼ通じません。英語で「ABCホテル」と言っても、わかってもらえません。行き先をタイ語で伝えるしかありませんが、タイ語は独特の発音のため、旅行者が正確に行き先を伝えるのはほぼ無理です。
グラブはタクシーにまつわるこうした不都合を解消してくれます。グラブで利用できるのは、ライドシェア、タクシー、そしてバイクです。ライドシェアの場合は事前に料金が確定し、一般の車かタクシーのどちらか近い車が迎えにきます。タクシーもライドシェアサービスの一部を担っているのが面白いところです。グラブでタクシーだけを指定して利用することもでき、その場合はメーター料金となります。乗る場所と行き先は、ホテルやモールなどのあらかじめ登録されている場所から選んだり、地図で指定することもできます。
グラブのドライバーとは日本語でチャットできます。「〇〇レストランの入り口で待っています」と日本語でチャットすれば、ドライバーから「わかりました。そちらへ向かいます」という自動翻訳された返事が返ってきます。乗車する場所がよくわからない時には、周りの写真を撮ってドライバーに送れば、ドライバーが場所を見つけてくれます。
乗車前には、ドライバーが乗車場所に向かって移動している様子が地図上にリアルタイムに表示されます。乗車後には、乗車場所から降車場所までのルート、現在位置、道路の渋滞具合、目的地までの所要時間などがリアルタイムに表示されます。不愉快な「大回り」をされる心配もなく、自分の現在地も確認でき、安心して目的地に向かうことができます。
支払い方法をクレジットカードにしておけば、現金のやり取りも必要ありません。乗車時に「こんにちは」、降車時に「ありがとう」と言うだけで、目的地まで確実に連れていってくれます。ライドシェアに乗車中の事故については気になるところですが、海外旅行保険に入っていれば、少しは安心して利用できるのではないでしょうか。
スマホにグラブのアプリを一度インストールすれば、サービスエリアの全ての国でライドシェアサービスを利用できます。支払い方法としてクレジットカードを登録しておけば、現地通貨も必要ありません。日本のクレジットカードも使えますので、東南アジアを周遊旅行する前に登録しておけば、到着した空港からすぐにグラブで目的地に移動することができます。
日常生活で使う
タイのバンコクでは、高架鉄道のBTSと地下鉄のMRTが整備され、公共交通機関で移動できる場所が格段に増えました。空港からもエアポートレイルリンクや国鉄を使ってバンコク中心部へ移動できます。現在も新しい路線が増え続けています。それでもタイでは多くの人が日常的にグラブを利用しています。
例えば、タイでは水道の水が飲めません。外国人だけでなく、タイの人も水道水は飲みません。飲料水は買って飲むのが当たり前になっています。1.5リットルや6リットり入りのペットボトルがスーパーなどで大量に売られており、定期的に買う必要があります。一度に買う量は家族の人数などで変わりますが、大きなショッピングカートを水で一杯にしている光景はよく目にします。
また、大きなスーパーはBTSやMRTの駅から離れた場所にあることも多いです。週末などに食料品や日用品を大量に買うような場合、公共交通機関だけで買い物に行くのは無理があります。
タイの人がグラブを使う理由はあまりよくわかりません。タクシーも利用しています。現地の人の話では、メーターをきちんと倒すよう事前に交渉してタクシーで移動するのが一番安くて済むそうです。ただし、行き先が近い場合の乗車拒否やメーターを倒すのを拒否されることはあるようなので、そうした煩わしさがグラブを選ぶ理由になっているのかもしれません。
困った時に使う
これまでタイとシンガポールで何度かグラブを利用してきましたが、ラオスではグラブが使えません。その代わり、ラオスにはロカ(Loca)というライドシェアサービスがあります。ロカの利用方法はグラブとほとんど同じです。支払いにはクレジットカードも使えます。
ラオスは国連が定める世界最貧国の1つで、タイのように高架鉄道や地下鉄などの公共交通はあまり整備されていません。道路にも所々穴が空いていて、地元のドライバーは「ダンシングロード」と言って苦笑いしていました。空港からホテルへの移動は、ホテルを通じて送迎バスを事前に予約しておくか、ロカを利用します。
実はラオスのルアンパバーンにあるナイトマーケットに行った際に、このロカに助けられました。ホテルは中心地から車で20分ほどの郊外にあったため、ナイトマーケットからの帰りの足としてホテルのシャトルバスを予約しました。しかし、ホテルの担当者間で連絡がちゃんと取れていなかったのか、ナイトマーケットのシャトルバス乗り場でいくら待ってもホテルのバスは来ません。30分以上待ちましたが、結局シャトルバスは現れませんでした。
まわりは徐々に暗くなり、送迎用のバスで帰る人も増えてきました。元々ラオスにはタクシーがほとんどなく、トゥクトゥクも出払っているようで、全く見当たりません。ホテルに電話しましたが、なぜが電話が繋がらず本当に困りました。
最後の手段ということで、ロカのアプリでドライバーを探してみたところ、幸運にも近くにドライバーがいることがわかり、無事にホテルまで帰ることができました。中心地からちょっと離れるだけで、ラオスの夜の道は真っ暗です。穴もそこらじゅうに空いていて、首輪の付いていない犬もうろうろしています。ここを歩いて帰ることになったらと思うとゾッとしました。
色々使えるライドシェア
初めてタイでライドシェアを使った時には、「本当に大丈夫か?」と、とても心配でした。これが、5回、10回と回を重ねるごとに徐々に慣れていき、今ではごく普通のこととなりました。買い物だけでなく、レストランに食事に行く時や、病院へ行く時にも利用しています。
東南アジアの方が日本に旅行した際に、グラブやロカのようなライドシェアがなくて不便はないのかと少し心配になります。日本でも移動手段がなくて困った時に、助けてくれる選択肢は多いほど安心ではないかとも思います。
日本でもライドシェアを利用できる日が来ることを楽しみにしています。